カチンコ

本番撮影の前に、シーンやカットのナンバーを入れる写真のような道具。パチンコとかボールドなどとも呼ばれる。一般には映画の象徴というようなイメージで受け取られているが、その本当の機能を知る人は意外にすくない。
映画のすべての音響は、フィルムの右脇に写真的に現像されたサウンド・トラックと呼ばれる細い筋の中に録音されている。
映画の映像と音響を同時撮影する際、このカチンコを打つ「パチン」という音は、サウンド・トラックの上では明瞭な一本の横の線となって現れる。
そこで映像フィルムの上でカチンコが閉じているところにこの線を合わせれば、以後のすべての台詞や音はまったく映像とシンクロナイズ(同時化)したものとなるわけである。

この小さな道具は実は映画のシンクロ撮影(映像と音の同時撮影)の重要な要なのである。カチンコを打つのは、日本では通常一番下位の助監督の仕事である。したがって彼は、カチンコと同時に白墨とそれを消すためのガーゼを常に離すことができない。
カチンコは普通両手を使い、きちんと打って開き、打ち手は音を立てないように画面外に逃げるのであるが、打った後逃げる場所がない、大変カチンコの打ちにくい場所がある。
こんな時「片手打ち」という技術が生まれる。ぎりぎりの場所に隠れ、片手だけを伸ばして打ち、引っ込めるのである。打った後、スティック(棒)の間に指を入れて二度音が出ないようにするのがコツなのだが、この「名人芸」を誇る助監督もいたものだ。

カチンコ2

極端なクローズ・アップなどの場合、普通のカチンコでは大きすぎて、字が入り切らない場合がある。この場合は黒板の一部に小さな字で書き、スティック部分が外れないよう注意して打つ。人気俳優の鼻をはさみそうな至近距離で打つ場合、結構緊張するものだ。
字は白墨で書くのだが、特にクローズアップなどの場合、打った拍子に白墨の粉が白く舞い落ちて画面をNGにしてしまうという悲喜劇が生まれる。
このため本番直前にナンバーを記入した後、何度か試し打ちして白墨の粉をよく落としておくなどという細かいノウハウが必要であった。

撮影現場では、シンクロでない時、あるいはテストの時など、別に必要ではないのに、音だけのカチンコを打つことがある。これは演技者のキッカケあるいはリズムをとるためである。
編集室で自分の打ったカチンコの映像を見るのは面白い。カチンコの閉じているのは一コマであるのが理想である。
ところが打ったあとの開きが悪いとこれが2コマ・3コマとなり、編集者に文句をいわれる羽目になる。逆にあまりの早業で、まるで閉じている部分がないというようなこともあった。
カチンコにどんな数字を書くかは各社のシステムによってまちまちである。松竹大船の場合上中央にシンクロ・ナンバー(同時録音番号)、下半分にシーン・ナンバー、ハイフン、カット・ナンバーとなるのが通例であった。

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2014.7.1 サイト開設